阿多田島伝道のきっかけ

 阿多田島は、人口六百の小さな島である。昨年の八月、ボーマン氏はほかの宣教師につれられて、初めてそこに渡った。 村を回って集会の案内をすると、住民の六分の一の百名が集まってきた。ボーマン氏は子どもたちにイエスさまのお話をして、日曜学校のコーラスを教えた。もう一人の宣教師が、通訳つきで説教した。決心者をつのると、五十名が手をあげて、クリスチャンになりたいと申し出た。 この大きな収穫を見て、ボーマン氏の心は躍った。同行の宣教師は、定期的に阿多田島に行けないので、自分がこの島の責任を持ちたいと考えた。 岩国の教会の牧師をしている彼は、帰るとさっそく、日本人の信徒たちに話して、伝道用のボートを購入することにした。しかし、中古のものはどこにも見当たらなかったので、思いきって、新しい小型発動汽船を造ることにきめ、船大工に頼んだ。 十二月一日、待望のボートが出来あがった。「福音丸」と命名して進水させ、毎日運転して、テストを重ねた。 十二月七日、波は多少高かったが、ボーマン氏は三人の子どもをつれて、阿多田島に渡った。岸に近づくと、目ざとく見つけた一人の子どもが飛んで来て、「おじさん、来た!おじさん、来た!」と声をはりあげ、手を打って喜んだ。 クリスマスが近づいているので、特別伝道の計画を立てたい。村の人たちと相談して、だいたいのスケジュールを組んだ。島の子どもたちは、「あすの夜も、おじさん、子どもをつれて来てね」とせがんだ。幼い子どもを見かけると、抱きあげてやりたいと思うボーマン氏は、こころよく、次の日も来ることを約束した。